七色の人形遣い

傀儡子廻し

傀儡廻し    大江匡房曰く
   或は双剣を跳らせて七丸を弄び
   或は木人を舞せて桃梗を闘はす
   上は王公を知らず
   傍牧宰を怕れず
   鼓舞喧嘩し以て福の助を祈れり
   聞く者は纓を霑らして自ら休むこと能はず
   誰か哀憐せざらん哉
  世に柵なく
  身ハ地上に在りても
  心は遙か仙境に遊ぶ
  世の貴顕といへど
  心の裡に羨望せざる者無しと伝へけり






七色の人形遣いことアリス・マーガトロイド嬢です。

 かなりの古参ながら、いろいろと謎の人、もとい魔法使いさんですね。
 『東方求聞史紀』の記述のうち、驚きをもって迎えられた内容は、おそらく彼女についてのことだったのでは。
 魔法の森の中にただ独り、人とのつながりを避けて暮らす彼女は、何故人である事を捨てたのでしょうか。
 決して人間との友好度が低い訳では無いようなので、魔法使いになった動機が気になります。

 彼女は本当に里で人形芸を見せているようです。
 文花帖でも烏天狗が旅芸人とか言ってましたが、私はアレな新聞記者が適当に書いてるのだと思ってました。

 と言う訳なので、今回はより人形遣いとしての面を強調して描いてみました。

 傀儡子(くぐつ、かいらいし)とは、人形を用いた芸能、乃至その芸を行う者を指します。既に八世紀に文献に現れます。その芸は、操り人形を歌に合わせて舞わすというものだったそうです。中世には人形芸だけでなく、様々な芸能を行っていたようです。貴族の宴席にも列し、今様歌謡などで名を成した者も居たと言います。彼等の芸は、後に琵琶法師や他の芸能と結びつき、人形浄瑠璃の源流となったのです。
 「くぐつ」の語源は、莎草(くぐ)あるいは糸で編んだ袋を「くぐつ」と呼び、こうした袋を持っていたからとも言います。この芸を保持したのは定住せず、諸国を流浪する民でした。彼等は課役を免れ、権力者の支配を逃れた自由人だったのかもしれません。
 人形の構造などはよく分からないのですが、絵図に描かれた傀儡師の多くは、布を被せた箱を抱えています。人形は、その箱の中から覗いているので、おそらく箱の中で人形を操っているのでしょう。

 で、上のようになったと言う訳です。鈴を持った人形を操ってる絵などもあったので、紅白と白黒に人形のモデルになって貰いました。頭巾も被せようと思ったのですが、誰だか分からなくなってしまいそうなので止めました。
 引用した漢文は大江匡房の『傀儡子記(くぐつき)』の所どころから抜いてきたものです。『傀儡子記』は十二世紀初め頃の放浪する芸能民の生態を記したものです。「王公を知らず...」の後には「課役無きを以て、一生之楽と為す」などとあり、当時の貴族文化人の持っていた、体制に属さない者達への羨望を読み取ることができます。

 2007年一枚目は何故かアリスになりました。実は結構好きなのか?自分。
 一応古い絵図が元絵なのですが、服装がコレだと古そうに見えないですね。
 詞書きの文字が読みにくくて申し訳ない。まあ、文字も飾りみたいなモノなんですが。
 彼女は魔理沙や霊夢とか旧作との関係でよく語られるのですが、私は単体というか、本人そのものも結構興味深いと思っている訳で。人形に執着する理由とか色々と。
 そういえば、江戸期の山猫廻しというのもほぼ同じ存在らしいのですが、猫廻したら藍になっちゃうよねえ。


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