真白き富士の根

夜雀の歌


???  「真白き〜富士の根〜、緑の江の島
       仰ぎ見るも〜、今〜は涙
       帰らぬ〜十二の雄々〜しきみたまに〜
       捧げまつる〜、胸と心〜♪」


     ※

小町   「――ほう。この歌は……」

     ※

阿求   「歌声が、……聞こえる。これは確か……」

     ※

霊夢   「???」

     ※

慧音   「……………」
      「何時聞いても悲しい歌だな……」


???  「ボートは〜沈みぬ、千尋の〜海原
       風も浪も〜小さ腕に〜
       力も〜尽き果て、呼ぶ〜名は父母〜
       恨みは深〜し、七〜里ヶ浜辺〜♪」

慧音   「それにしても一体誰が……。
       ああ、そなたか! ふふ、閻魔様の忠告を聞く気になったのか?」

ミスティア「え?それ何だっけ??」
      「この歌はね、里の外れのお婆さんに教えて貰ったの」
      「いつも縁側に座っていて、沢山沢山歌を知っていたわ。
       私は中でもこの歌が好きだったの」
      「でも、最近ちっとも聞けないの。今日も、一緒に歌おうと思ったのに」

慧音   「里の外れの……?」
      「―――――」
      「そこの御老人は今はもう……」

ミスティア「ん?」
慧音   「否、そうだな―――」
      「かの御老人はそなたと共にいるのだ」
      「そう、そなたがその歌を歌い継いで行く限り、いつまでもそなたの心の中で生きている」
      「人の命は短い。その姿形も、思い出もいつか消えて行く。
       でも、歌という美しい形を取ることで、その想いは後世に引き継がれて行くんだ」
      「喜びも、悲しみも。……時には怒りや苦しみさえも、ね」

ミスティア「―――――」
      「私には、そんなことはどうでも良いわ」
      「私は誰かの心を動かすことのできる、美しい歌が歌えれば、それで良いの」

慧音   「……………」

ミスティア「み雪は〜咽びぬ、風〜さえ騒ぎて
       月も星も、影を潜め〜
       みたまよ〜何処に迷〜いて〜おわすか
       帰〜れ早く、母の胸に〜♪」


ミスティア「……だけど。
       あれ、何でだろう。眼から涙が、後から後から」

      「―――――。ああ。本当は、もう一度会いたい」
      「一緒に歌いたい。でも」

      「………だから、せめてこの歌を」

      「帰〜らぬ〜浪路に、友〜呼ぶ千鳥に
       我も恋し、失せし人よ〜
       尽きせぬ恨〜みに、泣くねは〜共々
       今日も明日も〜、かくてと〜わに〜♪」


在りし日の歌


 「真白き富士の根」あるいは「七里ヶ浜の哀歌」と呼ばれる唱歌。
 歌詞は逗子開成中学校のボート転覆事故に題材を取ったものです。事故は明治43年1月23日(西暦1910年)に発生し、10歳から21歳までの生徒12人が死亡しました。この歌は同年2月6日の追悼式で鎌倉女学校の生徒達によって歌われた鎮魂歌なのです。
 鎌倉女学校の教師であった三角錫子の作詞、作曲はアメリカ人のインガルス。つまり、賛美歌に日本語の歌詞を付けたものです。事故やこの歌に関して、詳しくは逗子開成学園のホームページへ。

     ※

 過失による事故や人の死を美化しすぎることは良くないことだ。だが、こうした美しい形を得たことでいつまでも語り継がれることとなったのも事実。
 そして一地方の一悲劇を、若い人を失ったことへの後悔、我が子を失った母の悲しみという普遍的な内容へと昇華させたことで、この歌は名曲となったのだろう。
 って、慧音が言ってた。

     ※

 割と家が近いんです。稲村ヶ崎の銅像とかも見たことあるし。2番3番は涙なしには歌えません。
 上の会話では歌詞が一部抜けています。可能なので歌詞全文引用します。



真白き富士の根(七里ヶ浜の哀歌)
作曲:インガルス
作詞:三角錫子


真白き富士の根、緑の江の島
仰ぎ見るも、今は涙
帰らぬ十二の雄々しきみたまに
捧げまつる、胸と心

ボートは沈みぬ、千尋の海原
風も浪も小さ腕(かいな)に
力も尽き果て、呼ぶ名は父母
恨みは深し、七里ヶ浜辺

み雪は咽びぬ、風さえ騒ぎて
月も星も、影を潜め
みたまよ何処に迷いておわすか
帰れ早く、母の胸に

みそらにかがやく、朝日のみ光
暗(やみ)に沈む、親の心
黄金も宝も、何にし集めん
神よ早く、我も召せよ。

雲間に昇りし、昨日の月影
今は見えぬ、人の姿
悲しさあまりて、寝られぬ枕に
響く波の、音も高し

帰らぬ浪路に、友呼ぶ千鳥に
我も恋し、失せし人よ
尽きせぬ恨みに、泣くねは共々
今日も明日も、かくてとわに



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