八坂大明神

八坂大明神

 八坂大明神       風を呼び雨を齎す海神の女
  山を統べ贄を好み給う
  麁く猛き神也と云ふ
  現人神の往生とげ給ひ
  大明神と顕はれたる由
 山坂と湖の権化こと、八坂神奈子さまです。
 
 神社ごと幻想郷へと渡ってきた女神さま。神徳溢れる山と水と風の神。
 友達感覚? 蛇っぽい性格?

 乾を創造する程度の能力を持つ訳ですが、これは天空神として風雨を統御することを示しているのでしょう。これは農耕神として重要な役割です。実は坤を司る諏訪子さまとワンセットなのですね。
 さて、元ネタは諏訪大社の祭神、諏訪大明神、即ち建御名方富命と八坂刀売命だと思われます。御柱も派手に登場しますし。しかも、古事記で語られる国譲り神話に登場するタケミナカタではなく、現地諏訪に伝えられる(諏訪大明神絵詞など)諏訪明神のイメージが強く意識されています。注連縄を含めた蛇っぽいイメージなども、そうですね。
 この辺りは、ZUNさん自身が語ってもおりますし、私も日記で東風谷さんの話題に関連付けて書いたこともありますので、このくらいにしておきます(諏訪信仰は色々興味深くて、そうでもしないと切りがないのです)。東風谷さんについてのコラムが一段落付いたら、改めてまとめたいと思います。

 ともあれ、現地での諏訪明神は外来の征服者であり、支配者としての地位と開拓神・英雄神・豊饒神という属性を謂わば土着の洩矢神から奪った存在と言えましょう。しかし、その一方で、中央の神話ではいつの間にか天津神に敗れ逃走した土着の神とされてしまったのです。何とも皮肉な話です。
 私としては、一神教によくあるように、敗者の文化・信仰を消し去ってしまうような姿勢は好みません。この物語で語られたように、勝者も敗者も緩やかに融合して双方共に後世まで持続するという形が望ましいと思っています。彼の地の二柱の神とその崇敬者たちは、きっとそれを成し遂げたのでしょう……。それも既に幻想となってしまった訳ですが。

 ところで、私は日本の神話とか伝説が好きだったもので、諏訪の物語(中央の神話ではない甲賀三郎の物語なども含む)についても、偶々幾分か知ってはいたのですが、一般的にはどうなんでしょう? 結構マニアックな知識なようにも思うのですが。そう言えば、メガテンシリーズにはタケミナカタもミシャグジさまも登場するのですが、これも結構マニアックだし。東方へは私はどちらかというと伝説やらの世界から入ったのですが、シューティングや音楽から興味を持った方も多いはずで、そのようにしてこのゲームに触れた人がどのような感想を持ったのかも、ちょっと気になります。

 さて、絵は諏訪湖と言えばこれ! 七不思議筆頭の御神渡です。スペルカードにもありますね。実際の伝説では上社の彦神が下社の姫神の下へと通う……、あ、あれ? えーと、神奈子さまが諏訪子さまのもとへ通うとか??
 ――それはひとまず措きまして。
 遠景は一応諏訪湖を描いた浮世絵(池田英泉「木曾街道塩尻嶺諏訪ノ湖水眺望」)を参考にしたのですが、ちょっとアレでしたね(元絵には高島城が描かれています)。背景の神紋は下社系のもので、乙事神社の飾り金具を参考にしました。 実は先に書いた御方がおられるのですが、上の現象は一応季節ものなので、神奈子さまを先に掲載することにしました(ファイル名がずれてるのはそのため)。
 詞書きは、諏訪明神やら八坂刀売神、甲賀三郎の物語などの要素を混ぜ込んでみました。よくよく考えれば矛盾している訳なのですが、民間の神々はそういった混沌とした面も含めて魅力的なのだと思います。

 願わくば、新たなる来訪者たる彼女にも素晴らしき幻想郷ライフを――。


参考文献
  金井典美『諏訪信仰史』名著出版1982
  小松和彦ほか『日本異界絵巻』筑摩書房1999
  谷川健一『神・人間・動物』講談社1986
  松前健『出雲神話』講談社1980
  宮坂光昭『図説・諏訪の歴史 上巻』郷土出版社1983
  柳田國男「信州随筆」(『定本柳田國男集22』筑摩書房1962)
  下中弥三郎編『神道大辞典』平凡社1937(1970複製2版)
  国史大辞典編纂委員会『国史大辞典』吉川弘文館1987
  「東方風神録」(インタビュー記事)『季刊キャラ★メル』一迅社2008.2
 ほか


画図東方百鬼夜行へ

画帳へ

表紙へ戻る