雪女 | 雪上臈ハ蓋し白きものゝ美なる 精霊にして 冬季小児等の賞罰を 司り給ふ神女にこそ |
冬の忘れ物こと、レティ・ホワイトロックさんです。 言わずと知れた黒幕、寒気を操る程度の能力を持ち、季節限定にせよそれなりに強力な妖怪です。作品内ではやけに太ましかったり、弱い弱い言われたり、鬱憤晴らしを推奨されたりといった程度の扱いですが。 種族が雪女ということで、大変よく知られた雪の妖怪ですね。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「雪女」(『怪談』)のイメージが一般的でしょうか。 雪女の伝承は日本各地に伝えられているのですが、その性質は人を凍死させる恐ろしいものから子供と遊ぶ豊穣神めいたもの、子供のいない夫婦の下に訪れる優しく儚いものまで、極めて多様です。さらには月世界や山の神、産女・山婆といった妖怪との関連など、興味深い話題が沢山あるので、いつか別項を立てて論じてみたいと思っています。 雪女は人間に死をもたらす一方、時には力や富を与える存在であるなど両義的な存在です。そんな雪女のイメージには、北国での雪の冷たさ・恐ろしさ、跡形も無く融けてゆく儚さ・美しさなど様々な要素が複雑に重なり合っているように思えます。 そんなことを踏まえながら、今回の絵では美しく儚い女性というイメージを軸に、『遠野物語』(※)や泉鏡花の文章(後述)から子供を抱く図柄にしてみました。もっとも、基本的な構成は鳥山石燕の「画図百鬼夜行」の雪女にそのまま倣っています。..なお、この樹木(生垣)越しの姿は『百物語評判』の挿絵とも共通していて、その姿(あるいは正体)について江戸期には何らかの共通理解があったのかもしれません。 題材が季節的に微妙ですが(3/21公開)、炎が消えようとする時に逆に明るく輝くように、雪女もまた春になろうとする時に現れると文献(『宗祇諸国物語』)にもありましたし、まあ良いかということで。 詞書きは泉鏡花の「北国空」の一節です。雪上臈の幻想を記した美しい文章で、母のイメージを湛えた雪上臈は、畏ろしくも美しい女神として描写されています。 深山・雪・寒さ……、恵み深き大自然がその一面に持つ恐ろしさを忘れた時、この妖怪は再び猛威を振るうことでしょう。 |
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※柳田國男「雪女」『遠野物語』一〇三 「小正月の夜、又は小正月ならずとも冬の満月の夜は、雪女が出でゝ遊ぶとも云ふ。童子をあまた引連れて来ると云へり」 |
参考文献
高田衛監修『鳥山石燕 画図百鬼夜行』国書刊行会1992
村上健司『日本妖怪大事典』角川書店2005
笹間良彦『図説日本未確認生物事典』柏美術出版1994
『日本「神話・伝説」総覧』新人物往来社1992
高崎正秀「雪女の話」(『高崎正秀著作集7』桜風社1971)
高田衛編・校注『江戸怪談集(下)』岩波文庫1989
柳田國男『遠野物語・山の人生』岩波文庫1976
成瀬正勝編『泉鏡花集』(『明治文学全集21』)筑摩書房1966
泉鏡花『註文帳・白鷺』岩波文庫1950
ほか