死神 小野塚小町

死神

 死神   亡者を彼岸に導くと云
毎日恒沙の定に入り
三途の扉を押し開き猛火の炎かき分けて
苦海を渡る慈航ならむと
夢のうちに思ひぬ
 三途の水先案内人こと、小野塚小町嬢です。
 死神です。うん、そのまんまですな。
 本当はこの小野塚さんはいろいろ興味深い存在でなのです。まずは、彼岸への渡し守ということで、当然奪衣婆が想起されます。それだけでなく、「小野」塚という苗字からは、六道ヶ辻から夜な夜な地獄の閻魔庁に仕えたという小野篁や著名な巫女小野お通やらが思い浮かびます。又、名前が小町ですから、もちろん小野小町に繋がります。彼女も歌人としてばかりでなく、しばしば死と関連づけて語られる人物です。「塚」という言葉もやはり死やら様々な信仰体系を想像させます。いやー、なんとも美味しいキャラですねえ。だから詞書きにどんなことを書くか迷いっちゃいました。
 それにしても、銭投げすぎ。手に持ってるぐらいじゃ足らんでしょうに。某メイドのナイフもそうだけど、いったいどこにあの量を隠し持っているのだか。

 日本では死神という神格はあまりメジャーではないんですよ。小野塚さんの実際の属性は「奪衣婆」とか「野宰相こと参議篁」ですしねえ。で、無難に渡し守風にしてみました。大体死神は年寄りのイメージが強いので、こういう雰囲気は難しいですね。しかし、あのふにゃふにゃした感じの大鎌はどうなっているのでしょうか、フランスの死神アンクーの鎌は逆向きに刃が付いているらしいですけれど。
 実は「死神」という名の図版が、『絵本百物語』にあるのですが、これは現在私達が想起する死神とはすこしニュアンスが異なっていて、むしろ縊鬼とか、通り悪魔とか言う存在に近いもののようです。絵柄も貧相な男がごく普通の家の片隅にいるというものなので、これに倣うのは諦めました。

 うーん、表情とか動きとか、なかなか満足な出来になりません。まだまだ精進が必要です。
 ああ、本当のところ、三途の川を越えて救いに来るのは地蔵菩薩ですし、苦海の慈航は般若ですね。


参考文献
  高田衛監修『鳥山石燕 画図百鬼夜行』1992国書刊行会
  佐佐木高綱校訂『梁塵秘抄』岩波書店1933
  多田克己編『竹原春泉 絵本百物語』国書刊行会1997
  国史大辞典編集委員会編『國史大辭典』吉川弘文館1979
 ほか


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