氷柱少女 チルノ

氷柱少女

 氷柱少女       脆く儚き
  かりそめの姿に
  心の宿りたる
  ものゝよし
  冬の満月の夜に
  童子をあまた引き連れて
  遊ぶと云
 自称最強のHこと、チルノです。
 
 否、冷気を操る程度の湖上の氷精ですね。
 好戦的でおバカだけれど、紅魔に妖々夢、花映に文花と登場回数も多い、愛されキャラ。

 妖精は自然の力の顕現であり、きっと彼女たちの単純さも、無邪気さも、その純粋性に基づくものなのでしょう。
 幻想郷では、まだ数多くの妖精たちを見ることができるようです。幻想郷の住人が妖精を信じる心を失っていないということばかりでなく、彼の地では母なる大自然の力が、まだまだ強いということなのかも知れません。

 妖精という概念は、本来日本のものでは無いこともあり、ヨーロッパ世界の所謂フェアリーに、何が該当するのかははっきりしないと言って良いでしょう。日本でも悪戯好きの精霊や、モノに宿る「精」はしばしば語られますが、ヨーロッパ的な妖精とはやや異なる存在に思えます。
 敢えて氷の妖精に近い存在を探せば、雪女や雪女郎といった所でしょうか。そうすると、むしろ黒幕と区別が付かなくなってしまいそうですが。
 で、今回の原型は氷柱女という話です。確か秋田地方の伝説だったかと思います。基本的には雪女の物語のバリエーションの一つで、親切でお風呂に入れたら溶けてしまったというものです。いずれにせよ、こうした話には、冬や山の恐ろしさを思わせる部分と、雪や氷の儚く脆いイメージの双方が感じられます。各地の雪女の伝説も、物悲しいものが多かったように記憶しています。(なお、水木しげる画の氷柱女があるのですが、この絵は怖い、かなり怖い)
 ともあれ、雪の精は、現在の物語や漫画などでもよく見られるキャラクターですね。そんな氷柱の精のお話の中で、お気に入りは、あさりよしとおの漫画『宇宙家族カールビンソン』の「紅白雪合戦」という短編です。大分昔のものなので、と思ったら、最近文庫版が出てましたね。

 さて、あぷえぬすたーとさんの出鱈目コンテストで、お題が「H」と出ましたので、何のひねりもなく描いてみました。
 先述の通り、妖精は、日本にはぴったりくるモデルがないので、絵柄はなんとなくですね。まあ、兎に角元気な感じに。それから、彼女は何時でも元気でお馬鹿なだけなようですが、それでは余りに何なので、詞書き部分ではちょっと儚さも加えてみました。満月云々は、『遠野物語拾遺』に収められた雪女の昔話にある内容です。
 なお、地紋は雪に因む日本の伝統文様です。

 彼女達には何時までも、楽しく無邪気な幻想郷ライフを満喫して貰いたいものです。


参考文献
  高田衛監修『鳥山石燕 画図百鬼夜行』1992国書刊行会
  柳田國男『遠野物語』角川文庫1955
  村上健司編著・水木しげる画『日本妖怪大事典』角川書店2005
 ほか


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