狂少女 . | 愛しき乙女に愛しい花を 萬世も代わらぬ證(あかし)の記念(かたみ) 花に包まれ 涙の雨が 墓に降ります 禁忌の雨が 罪も罰も恋も尽き 甘き死さえも乗り越えて 遥か遥かな永劫(とわ)の果て 遂に地上へ帰還せん |
昔々、ある所に、紅い赤い大きなお屋敷がありました。 紅いお屋敷の奥の奥、深い深い地下室に…、 一人の少女がおりました。 彼女は天使? それとも悪魔? そこに在るのは無償の愛?、それとも無限の恐怖? 胸に抱くは無垢なる魂? それとも底無しの狂気? 少女は祈る、闇の中。少女は歌う、夢の中。 その瞳に灯るのは…、 闇を拓く小さな小さな希望の火?、それとも無間の奈落へ誘う瞋恚の炎? 閉ざされた世界の中で、少女は何を想うのか。 まだ見ぬ未来への淡い希望? やがて来る避けられぬ終末への恐れ? 大切なものを失わぬために、誰も手が届かぬよう大切に秘匿したのか。 古の人々が墓を巨石で塞いだ如く、畏怖すべきものを遠ざけたのか。 この少女こそ輝ける救済者。 この少女こそ黄昏の世界を焼き尽くす炎の剣。 昔々のその昔。 紅く赤いお屋敷に。 孤独な少女がただ一人。 ※ ※ ※ 悪魔の妹ことフランドール・スカーレット嬢です。 あらゆるものを破壊する程度の能力を備えた、ちょっと危ない妹様です。基本的に外出禁止のためか、作品に登場する機会も少ないようです。紅魔郷は難易度が高くて、会うまでが結構大変でした。立場的には“閉じ込められたお姫様”のような感じの筈なんですが、全くそのようにならないのが面白いところです。 血を食べているので“吸血鬼”なんでしょうけど、能力とかを見ても何だかもう別物ですね。何れにせよ、吸血鬼というのは、文化や自然環境の違いからか、我が国では余り見ないタイプの妖怪変化です。 彼女については、スペルカードや曲名などにもクリスティ作品やら何やら、色々な要素が盛り込まれていて中々楽しいです。なお、主要な要素たる本家ヨーロッパでの吸血鬼やら不死者の伝説については、レミリアの所でも少し触れましたし、収拾がつかなくなりそうなのでここでは触れないこととします。 さて、公式テキストで気がふれているなどと言われてしまっている妹様ですが、紅魔郷では(主人公組を含めても)最も普通の会話を交わしていた気がします。ですから、本当は全部逆さまで、アレなのはむしろ妹様以外全員なんじゃないか、なんて考えたりしてしまう訳です。 今回絵柄については、吉原を描いた「廓中格子先図」(葛飾お栄)というちょっと不思議な雰囲気の浮世絵を参考にしてみました。背景はもっとしっかり描くべきだったと反省しています。さらに光と影が変ですが、そこはまあ御愛嬌。また、タイトルの狂少女ですが、これは能楽の狂女物から採ったつもりで、最初は内容にもそれが反映していたんですが、推敲するうちに関連が薄れて、結局要素はタイトルくらいしか残りませんでした。 一方、詞書きの前半部分は、シェークスピアの「ハムレット」(坪内逍遥訳)を参考にしています。有名なオフィーリアのエピソードの部分です。後半は適当です。甘き死はむしろ黒幕な人用かもしれませんが。 ちなみに、右側の印影の中に「魔法少女之印」というのがあるんですけど、これは以前、巴マミさんのイラストを描いた時のものを流用しました。印影の配置はいまいちだったかな、余白の使い方が下手。 495年を経て、遂に変化が訪れました。彼女も姉たちと同じように、幻想郷へ受け入れられて貰いたいものです。 [Q.E.D] |
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参考文献
高田衛監修『鳥山石燕 画図百鬼夜行』国書刊行会1992
村上健司『日本妖怪大事典』角川書店1966-7
坪内逍遥・二葉亭四迷『坪内逍遥 二葉亭四迷』(『日本文学全集』1)集英社1974
ほか