竹取物語 | 逢ふことも なみだに浮かぶ 我が身には 死なぬ薬も 何にかはせむ |
永遠と須臾の罪人こと、蓬莱山輝夜嬢です。
歌は竹取物語より、不死の薬を残して月へと去ったかぐや姫に対する帝の歌です。
竹取物語の末尾近くに出てくるものです。かぐや姫は月へ戻るために天の羽衣を着る直前、不死
の薬に添えて「今はとて天の羽衣きるおりぞ君をあはれと思ひいでける」の歌を残しました。絵中の
歌はそれに対して帝が詠んだものです。逢うこともなく、その悲しさに溢れる涙に浸る私には死なな
い薬など何の役に立とうか。という訳です。「無み」を「涙」に懸けたり、連想語として「うかぶ」を用い
るなど悲しさを表す技巧が為されています。ちなみに岩波版の表記では「逢ふことも涙にうかぶ我身
には死なぬくすりも何にかはせむ」です。
結局薬は「つきのいはかさ」に託されて富士山で燃やされることになる訳です。まあ、普通の人間
にとって不死というのは重すぎますから。
輝夜嬢はルナティックとかニートとかひきこもりとか、はたまたぐやとかてるよとか、結構さんざんに
言われてるようです。確かにバックグラウンドとしては色々言われても仕方ない様な面もあります。
が、時にはこの絵の様なこともあるのではないか、と思う訳で。捨てたはずの月の都、育ての親、
五人の貴公子、そして帝………。彼女にとっては、未来は永遠にやってくる物ですし、過去も果てし
なく積み重なってゆくものでしょう。それでも、かけがえのない特別な時や人もあったのではないで
しょうか。たとえそれが永遠に失われてしまったものでも。
元話『竹取物語』のかぐや姫は、月からの使者を迎え、天の羽衣を着た瞬間に、人間らしい心を失
ってしまいます。
「ふと天の羽衣うち着せたてまつりつれば、翁いとほしく、かなしと思しつる事も失せぬ。
此衣着つる人は、物思ひなく成りにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇
りぬ」(『竹取物語』)
さて、永夜抄世界で月へ帰ることを拒んだ輝夜の心の裡はいかなるものだったのでしょうか。
やっと仕上がりました。下絵を描いたのは遙か昔………。
背景と人物の関係がいまいちかな?
浮世絵風にするには遠近法は無視するか誇張する方が良かったかも。