上白沢慧音 | おほけなく うき世の民に おほふかな 我が立つ郷に 墨染の袖 |
(本歌)前大僧正慈円 | おほけなく 憂き世の民に おほふかな わが立つ杣に 墨染の袖 |
知識と歴史の半獣こと、上白沢慧音さんです。
歌は慈円のものに手を加えました。慈円の歌は百人一首にも採られていて有名ですね。
上白沢慧音さんは懸命に人間の里を護っているのです。彼女の力は無限ではありません。それでも彼女は人間を護ります。たとえ相手が計り知れない力を秘めた人妖でも。敵わないと解っていても。 歌中の「おほけなく」とは、“我が身に分不相応にも”の意味です。また、「墨染」は「住み初め」との掛詞です。 ―――我が身不相応にも、この世の人々の上に、あまねく加護の覆いをかけよう、そう、この幻想郷に住み始めた私の衣の袖を。そして里の人々を悩み苦しみから救おう。たとえ私の力が小さくて、できることが僅かでも。 元々の歌は、作者慈円の仏教的信念・覚悟を歌ったものです。法華経や伝教大師最澄の言葉を踏まえ、衆生済度・仏法加護を祈る歌です。意味は、「比叡山に、仏法を奉じて住み始めた私の墨染めの衣の袖を、身の程を知らぬことではあるが、御仏の加護を願って、浮き世のすべての人の上に覆いかけることであるよ」であり、墨染の衣(=僧衣)を以て覆うとは、仏法によって衆生を救済することを示すのです。 慈円(1155〜1225)は関白藤原忠通の子で、当時の仏教界の重鎮です。院政末期の乱世に生き、政争に巻き込まれたためか、四度も天台座主になっています。歌人としても有名で、藤原定家と共に和歌に新風を開いたとされます。勅撰集には255首選ばれています。本作は『千載集』(巻十七)に載せられたもので、百人一首の第九十五首でもあります。史論『愚管抄』の作家としても有名でしょうか。 絵柄についての解説はいらないでしょう。ただ、こういう風に画面一杯に何か描いたり、濃い色を使ってしまうと、浮世絵風には見えません。がっくり。 本当は昨日(8/15)に掲載予定だったんですが、遅れてしまいました。 でも、衣装の色は藍色、墨染色じゃないよねえ。 |