○平成18年7月
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病気、それも長い病気は、生きる術を学び
心の持ち方を陶冶するまたとない機会である
ノヴァーリス『遺稿断片』より
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八意永琳 | パチュリー・K |
パチュリー | :病も長引いているうちに、やがてそれが常態となる……。それはもはやパートナーの様なもの。でも、やっぱり……。 :一病息災なんて言うけれど、これは所詮健康な人の発想だわ……。 :―――――ふぅ。 :それでも前向きに生きていく為には、何事も悲観的に捉えてばかりではいけないの。だから。病気に立ち向かうとき、誰もが自分を見つめ直し、それまでの生き方を顧みることになる。そのことをノヴァーリスは「心の持ち方を陶冶する」と表現したの。そういえば正岡子規も病を「楽しむ」と書いているわ。 :でもきっとそれは死を身近に感じ、不確かなる生を見据える、そんな苦闘の果てにたどり着いたもの。生への飽くなき渇望にして、崇高なる生命の賛歌……。 :……………………。 :……………………。 :ノヴァーリスNovalisは魔術的観念論を唱えた独逸浪漫派の詩人ね。1772年独逸のイェーナに生まれ、1801年29歳の若さで死んだの。本名フリードリヒ・フォン・ハルデンベルクFriedrich von Hardenberg。作品としては『青い花』や『夜の賛歌』が有名かしら。 |
八意永琳 | :夏嵐机上の白紙飛び尽くす。―――室内に隠ってばかりでは治るものも治らないわよ? :それとも貴女は健康だったかしら。何時だかは飛んだり跳ねたり蹴ったり叩いたりしていたらしいし。 |
パチュリー | :―――――。ロイヤルフレ………。 |
八意永琳 | :ちょ、ちょっと!いきなりそれは無いでしょ。 |
パチュリー | :……………………。 :………何故あなたが此処に?あなたは此処ではお呼びでないわ。 |
八意永琳 | :あら?白玉楼の亡霊にここに心臓の弱いお嬢様が居るって聞いたのだけれど。 |
パチュリー | :………それは嘘。大体あなたはレミィと弾幕ごっこをしたでしょうに………。わざと? :それに『病牀六尺』はほとんど食べ物日記じゃない………。 |
八意永琳 | :???。 |
パチュリー | :……………………。 :ノヴァーリスは死と夜に惹かれ、生と死の狭間からその魅力を謳い上げる……。「生は死の発端である。生は死のためにある。死は終わりであると同時に始まりであり、別離であると同時にいっそう近しい自己完結である」 |
八意永琳 | :『花粉』かしら?死を歌っていても、やはりそれは生命の賛歌でもあるわけね。 |
パチュリー | :死への畏れも、病の苦しみも知らぬあなたには、何も言う資格は無いわ。 :………永遠の咎人には、芸術無き静寂の日々がふさわしい。 :はからざるに病を受けて、たちまちにこの世を去らんとする時にこそ、はじめて過ぎぬるかたの誤れる事は知らるなれ |
八意永琳 | :………。 :折角だから、薬はいかが?貴女には薬が必要ではないかしら? |
パチュリー | :モリエールはこう言っているわ。「たいていの人間は病気のせいではなく、薬のせいで死ぬのだ」とね。 |
八意永琳 | :私の薬は完璧よ。それにほら、「薬石去らば吾亡ぶるに日無からん」なんて言うでしょ。薬は必要かつ有効なのよ。 |
パチュリー | :それは諫言をする者が必要だという喩え。じゃあ貝原益軒の『養生訓』を引用するわ。「一切の病に、みだりに薬を服すべからず。病の災より薬の災多し」。 |
八意永琳 | :―――――。今日はずいぶん私に突っかけるわね……。貴女には珍しい事のような気がするけど………? |
パチュリー | :それは私のせいではないの。 :それは多分管理人のせい………。 |
八意永琳 | :あら、そうなの?折角まともなコーナーに登場できたのに。随分な言われ様だわ。 |
パチュリー | :………メタな展開は御法度なの。 :兎に角、薬九層倍な貴女はお呼びでないのよ。 |
八意永琳 | :それは語呂合わせないいがかり………。 |
※参考文献 ノヴァーリス(前田敬作訳)『日記・花粉』(現代思潮社)