今月の御言葉

○平成18年10月

上白沢慧音  変哲のない石ころひとつにも
地球という天体の歴史が克明
に記されているのである。


   変哲のない石ころひとつにも
  地球という天体の歴史が克明に
  記されているのである。

          奥泉光『石の来歴』(文藝春秋社1994)より


上白沢慧音 伊吹萃香
上白沢慧音 伊吹萃香


上白沢慧音 :「河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている」
:………これは奥泉光の『石の来歴』の一節だ。つかの間の人生と堅固な岩石。両者は一見正反対な存在に見える。しかし、それも宇宙的な時の流れの中においては等しい歴史的存在となる。………主人公は極限の戦場で次の様に語りかけられる。
:「君が散歩の徒然に何気なく手にとる一個の石は、およそ五十億年前、後に太陽系と呼ばれるようになった場所で、虚空に浮遊するガスが凝固してこの惑星が生まれたときからはじまったドラマの一断面であり、物質の運動を刹那の形態に閉じ込めた、いわば宇宙の歴史の凝縮物なのだ」
??? :………♪いぇつと、いすと、えす、つぁいと、げのっせん!ひっく。
:♪れーぁて、おいれ、ごぉるでん、………。
上白沢慧音 :―――――。
:循環する生命、宇宙の中の人間………。不遇と混迷の人生の果てに、石が彼にもたらしたものは………。夢と絶望の狭間にあったのは、過去への悔恨か、それとも未来への希望か………。
:「たとえばわれわれの躯にしても、骨のカルシウムはいずれ岩になって鉱物の循環に投げ入れられる。だから君が河原で拾う石ころは、どんなによそよそしく疎遠にみえようとも、君とは無縁ではありえない。君自身を一部に含む地球の歴史の総体を君は眺めるのであり、いわば君は君の未来の姿をそこに発見するのである」
??? :♪どぅんける、いすと、だす、れーべん。いすと、であ、とーと。
:ひっく。
上白沢慧音 :………、あー。良いから出てきなさい。
:いくら薄まっていても、私には分かる。
伊吹萃香 :ありゃ〜、ばれてたかー。そうよねぇ〜、あんたは識るモノだもんねぇ。
:別に隠れてた訳じゃないけどね。
上白沢慧音 :―――――。
:で、何しに来たんだ?見てるだけでは何か不足なのか?
伊吹萃香 :まーまー、けーねもそんな冷たいこと言わない言わない。
:ほら、あんたを見込んで飲み………、もとい話をしに来たのよぉ?
上白沢慧音 :話、ねえ。そなたの性格、知識、交友関係…、あらゆる点からみて私とわざわざ話しに来る理由は考えつかないが。
伊吹萃香 :そんなことないよ〜。
:えーと、岩とか大地の話でしょ〜。私が語らなきゃねぇ。
:「あなたがたに言っておく、もしこの者が沈黙するなら、石が叫ぶであろう」ってね。えーと、ルカ19章の40だったかな。
:あ、まずは一杯。
上白沢慧音 :って、こら、しゃべるなら素面で語れ。
:うーん、そういえば大地の力の顕現としては、そなた達鬼が最も良く当てはまるとも考えられるな。
:石も岩もそうした大地の力に連なるもの、遙かな時の流れを経、歴史を刻むものであると共に、生命を生み出す力の源でもある。地霊たる鬼の力はそこから生じるのだったな。
伊吹萃香 :(ぐびぐび………)
:ぷは〜。うにゃ、堅固な巌も、風に吹かれ雨に打たれてやがて欠片となり、大地に還って土となる。そして時が経てば、また再び硬化して石となる。その過程で命を育て、時には生命の一部となる。
上白沢慧音 :そう、時には灼熱の火山となって、炎の中から岩として再生する。
:自らも諸相の循環を繰り返し、同時に生と死のサイクルを支えているのだな。
伊吹萃香 :石はまた、そこに“ある”だけで聖性を獲得する。石は堅固で腐る事もなく、生き物とは異なる永久を思わせる質感を持つ。だから石はしばしば神霊の表徴となった。
:れもね、ひっく。石はね、本当は天空から神が降り立つ故に神聖なのではないの。大地から天空に向かって立つ、下から上への大地の力の表れなのよ。
上白沢慧音 :ふむ、それだけではあるまい。石は大地と結ばれると共に天空の、特に月や雨と関連づけられる。だからこそ、石も生命の母なる豊饒性を象徴するものとなったのだろう。
伊吹萃香 :えっとぅ。石は地霊の力を示すもの、だから私達鬼の多くは岩屋に住んでるのよ?
:本来石は神聖なもの、印地打ちは知ってるでしょう?だから〜、石を投げるってゆーのも、物理的な“力”を表すだけじゃないのら!そ〜れ「投擲!天の岩戸ぉ」!
上白沢慧音 :うわ、本当に投げなくていいって!
伊吹萃香 :あ?え?
:………だからぁ、大地はあらゆるモノの源、原初の混沌にも相当するの〜。大地の聖性は、我々の存在を超えてそこに“ある”ことから生まれたの。そしてその顕現こそが母性なのだわぁ。大地は直截に「母」として、「母なる大地(テルス・マテル)」として現前していたのよ。
:動物、植物、人間、………、ありとあらゆるモノを生み出す原初の母、それが大地。
上白沢慧音 :そうだな。大地は生命を生み出す。そしてそれは大地母神として人格化される。
:「大地は生命ある形態を大地自身の実質からひきだして、産出する、………大地から発するすべては、生命を賦与され、大地にかえるすべては、再び………」
伊吹萃香 :(ぐびり)
:ほ〜ら、けーねも飲も飲も!(ぐいぐい)
上白沢慧音 :………おい、一体何しに来たんだよ………。

   (―――少女酒盛り中)

伊吹萃香

:だ〜か〜ら〜ね、そ〜いうわけなのよぅ。
:………。ん〜、さあさあ、イケる口なんでしょ。
:―――――。
:えーと、何だっけ。そうそう、だーかーらね、私達の力は大地の力、生命力と源を同じくするもの。命あるものは大地より生まれ、そして大地へと還る。何れ再び生命を得るために。
:………そう、人の世に染まらぬ無垢なる者も、再生のために大地へと帰ってくるの。
:だから大地の霊、大地母神は豊饒ばかりでなく死も司るのよ。死も我が内に静かに眠るってね。
上白沢慧音 :……………。
:そうか、だからそなたは永遠に童子の姿なのだな……。
伊吹萃香 :んにゃ。今は楽しい話をするんだら?
上白沢慧音 :そうだったな。……いや、私も別に楽しくないわけではないのだが。
:……………どうして戻ってきたのだ?
伊吹萃香 :……………知ってるくせに。
:そりゃもー、楽しい宴会がしたいからに決まってるじゃない。ねー。
上白沢慧音 :なにが「ねー」だか。
伊吹萃香 :むー。折角良い相手を見つけたと思ったのにな〜。
上白沢慧音 :神社周辺の連中とか、宴会の好きそうな奴等が沢山いるじゃないか。
伊吹萃香 :う〜ん。何て言うのかなー。
:ほら、洋モノとは文化が根本的に違うしー、紫もやしは何かこうずれてるしな〜。かといって、おバカと呑んでもねー。見てる分には楽しいんだけどねぇ。
上白沢慧音 :……………(おいおい)。
伊吹萃香 :亡霊は反応薄いしさ〜、魔法使いは私の事をコレクションかなんかだと思ってるみたいだしー。ひっく。
:紅白やスキマ??あれは最近人生(?)悟っちゃってて駄目よぉ!まったくぅ、若さがないわ若さが!!
上白沢慧音 :……………(それじゃあまるで近所のウルサイおばさんだよ)。
伊吹萃香 :ふぁ。……かといって竹林の奴等は酒が効かないってんだもの、駄目駄目。
:強いとか弱いとか以前の問題よね。
上白沢慧音 :幻想郷じゅうに押しかけてるんだな………。
伊吹萃香 :あぁ、そんなことはどうでも良いのであった。
:私達は大地の豊饒を顕現すると同時に、夜に生き、月相を支配するもの。死と再生、水と母性を統べるもの。生命は儚く脆い、けれど月と大地の永劫回帰によって回復されるのよ。
:無限に繰り返される生と死の循環、月下には永遠なるものなど存在しない。……不死でありながら生きている、また動的にして静謐、逆説を実現する聖なる酩酊すら我が力。
:うふふ。さあ、天をも碎く私のちからをみせてやるぅ。ひっく。
上白沢慧音 :まあまあ。……ん?私達!?
伊吹萃香 :だって、あなたもそうだもの。
上白沢慧音 :私が、か?
伊吹萃香 :そうそう、けーねは“護る者”でしょ。
:月より力を受け、牛頭を頂くもの。命を、幼きものを護るもの、そうでしょ。
上白沢慧音 :まあ、そうだな……。
伊吹萃香 :知ってると思うけど〜。角は月輪の象徴、新月を通して水と豊饒に連なるものだものねぇ。
:私達は母なる大地そのもの。かつて異国ではイシュタル、ハトホル、イシス、キュベレイ、ヘカーテ、デーメーテール、ホルダ、でぃあーな、がいあ、あなーひ……、あれ、えーと、なんだっけ?
:……とにかく、数多の名で呼ばれし古き母神。天空より来たりし猛き神のために主神の座を追われしもの。
:………だから私達は常にまつろわぬモノの影を負う。でもね、私の力は大地の力、地霊としての我等の力は受け継がれたわ。だって私は此の地の産霊だから………。
上白沢慧音 :そうね………。この角は、牛頭天王の、神農の系譜を引くもの。そしてそれは犠牲の牛に、水と大地に、そして遙か遠く契約神ミトラスへと至るわ。……私にとっては源流なんてどうでも良いことだけれど。
伊吹萃香 :(ぐびぐびぐびぐびぐびぐび………………)
:この世に生命のある限り、この力は永遠!たとえそれが隠れた力となっていても。
:大地に、山に、巨石にも、人げんはわたしのまぼろしをみるのらから。
:………うぃ。そ〜れ、いぶき萃香、坤軸の大鬼、いっきま〜す。
上白沢慧音 :うわ、め、迷惑。

(どっか〜ん、がしゃん、がらがら)

上白沢慧音

:はあ、とほほ。
伊吹萃香 :あれ、もうおしまいなの?
上白沢慧音 :あとは神社にでも行って飲んでくれ。あれは慣れてるんだろう?
伊吹萃香 :えー。
:ところでさぁ。私のせりふの雰囲気が一貫してないように思えるんだけどー。
上白沢慧音 :ああ、多分それはここの管理人が萃夢想をまともにやってないからだろう。マシンパワーがどうのとか、言い訳を聞いた事があるからな。
伊吹萃香 :なんだってー!
上白沢慧音 :ほら、それだって霊夢のせりふだよ。
伊吹萃香 :が〜ん。



※参考文献
 奥泉光『石の来歴』文藝春秋社1994
 エリアーデ(久米博訳)『豊饒と再生』せりか書房1974

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