橋姫 水橋パルスィ

橋姫

 橋姫       貴船の神の力を得
  妬み故に生きながら鬼神となりし由
  また伝ふ
  強ひられて人柱と沈められし娘
  後に神と顕はれ給ふと
 地殻の下の嫉妬心こと、水橋パルスィさんです。
 
 うちのサイトを見て頂いている方ならお馴染みの境界の護持者、橋姫です。地上と地底の境界にあって、越境者を見守る守護神です。まあ、作品内では妬ましい嫉ましい言っているばかりですがね。

 サイトの境界論などで取り上げたように、橋姫明神は私が非常に関心を寄せていた女神様なので、こうして登場したのは嬉しい驚きでした。加えてパルスィ(私はパールシーの表記で知りっていましたが)と言えば、(インドにおける)ゾロアスター教ですよ?。うちとこではパチュリーさんがゾロアスター系の呪文を使っているように、こっちも好みなのです。やっぱりグノーシス主義ですよねえ。と言う訳で中々心惹かれる設定をお持ちのお嬢さんです。ああ、パールシーと言えば牛の(以下略)。
 さて、ゾロアスター教やマニ教などの二元論とキリスト教異端の話とか、ペルシャ文化の東遷とかと、色々楽しそうな話題もあるのですが、深入りするときりがなくなりますので、この辺りで。

 橋姫明神の話に戻りますが、一般的には「日本国の内大河小河の橋を守る神なり」(『神道集』)とあるように、橋を守る神様です。しかし、橋姫にまつわる説話や伝説を見てゆくと、幾つかの系統があることが分かります。
 最も良く知られるのは所謂「鉄輪の女」で、渡邊綱や安倍晴明が活躍する物語に登場します。嫉妬心故に鬼と化した女が、最終的に宇治に祀られたというものですね。『御伽草子』やら『平家物語』「剣の巻」で語られています。妬み、祟る女神様としての橋姫です。嫉妬という点で、柳田國男が紹介する橋での禁忌などにも深く関わると思われます。
 一方で、「雉も鳴かずば打たれまい」で知られる、人柱伝説系の物語もある訳です。『神道集』「橋姫明神事」が有名でしょうか。そこからは人身御供の痕跡だけでなく、母子神信仰や水神に仕える巫女など、かつての様々な民間習俗の存在さえも想像することができます。この系統の物語では嫉妬よりも家族や夫婦の愛情が強調されているように思えます。何れにせよ死の影を色濃く負った悲劇の女性といった印象が強いですね。龍宮に夫を奪われた女性が悲しみの余り亡くなり、後に神と祀られたというような伝承が、『橋姫物語絵巻』などに残されています。

 話は尽きないのですが、又何時か、別の場所で。
 人柱と橋姫についてはこちら(「境の殺戮」)に、貴船と鉄輪の女についてはこちら(「人形送りの夢」)やこちら(「京師迷走・鞍馬貴船篇」)に少し書いたことがあります。興味のある方はどうぞ。

 そう言えば彼女、作中では結構酷い言われようですよねぇ。萃香も「下賤な妖怪」何て言ってますし。うーん、幻想郷からも追われていたので仕方ないのかも知れませんが、個人的には萃香にはこうした貴賤で差別するような物言いはして欲しくなかった気がしますねー。ま、私が不寛容と穢れ忌避が嫌いだからかも知れませんが。
 余談ですが、パルスィ嬢、何となく霊夢より魔理沙に対しての方が物言いが優しい気がしますな。

 詞書きですが、橋姫に関する伝説のうち、二つを取り上げました。
 実は鳥山石燕の画図百鬼夜行シリーズにも「橋姫」の項目はあります。その詞書きをそっくり頂こうかとも思ったのですが、余りにアレなので止めました。「橋姫はかほかたちいたりて醜し」はないよねぇ。
 また背景は橋の一部です。これは宇治橋の途中に設けられていた「三の間」と呼ばれている部分で、元々橋姫神社が祀られていた場所と言います。神社そのものは移動しましたが、今でも橋に残されています。

 パルスィ嬢は、あの立ち絵の“裏がありそうな”笑顔が良いんですけど、ドット絵の動きとか見るとこんな感じですかねぇ。
 あ、岩本さんの描くパルスィ嬢「洞穴の橋姫」がとても良い感じです。パルスィ好きは是非是非。絵が上手っていいなあ。


参考文献
  高田衛監修『鳥山石燕 画図百鬼夜行』1992国書刊行会
  貴志正造訳『神道集』(『東洋文庫94』)平凡社1967
 ほか


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